ボナンザ対勝負脳 保木邦仁・渡辺明 2007年8月
コンピュータソフトの歴史は、パソコンの歴史とあまり変わらない位に古いです。
当初は、人間が六枚落でどうかぐらいでした。
そのうちに、詰将棋に限れば急激に性能が向上しました。玉が詰むという事が評価に直接繋がるのが原因と推定されています。
次第にコンピュータの性能向上と合わせて、局面評価技術も向上してきました。ただ、「シンプルにひたすら読むのは無理という」 神話的なものがあり、評価点を作る技術=将棋の棋力がプログラムに必要といわれた事もありました。
そこに登場したのが、本書の「ボナンザ」です。作者が将棋棋力が高くなく、海外に当時在住しており既成ソフト情報がなく、チェス のプログラムを基本に製作しました。
それが、「しらみつぶし方法」であり、「評価点の機械学習」です。
そして、これも神話的に信じられていた「詰将棋解図機能の搭載」をおこなわない事でした。
これらは本書の第1賞に詳しいです。
第1章 ボナンザ誕生・保木邦仁
ディープブルーからボナンザへ
チェスのチャンピオンが負けた日
コンピュータ将棋との対局禁止令
制御理論を機械学習に応用
局面評価をモデル化し、1万以上のパラメータを調整
しらみつぶしが功を奏す
しらみつぶしも選択する
全幅探索だからこそ善戦できた
コンピュータは果たして人間に近づいたのか
第2章 コンピュータとの対決・渡辺明
コンピュータとの対局禁止令
急速に強くなる将棋ソフト
なぜボナンザは人間らしいのか
奨励会員を次々に負かす
コンピュータ用の対策とは?
ついにボナンザの弱点を見つける
コンピュータの得意は避けるべきか
ボナンザの得意パターン
人間側が圧倒的に勝る技術とは?
コンピュータに負けそうな棋士のタイプ
ソフトにどうして棋風が生まれるのか?
構想力が勝負のカギとなる
コンピュータと戦うのに最適な持ち時間は?
プロに肉薄するボナンザ
作戦の裏をかかれる
コンピュータの限界
チェスで起きたことは将棋でも起きる
対談 保木邦仁・渡辺明
ボナンザの善戦は、幸運の産物!?
人間の評価法は多種多様
人間の感覚は数値化できるか?
対コンピュータ戦の秘策
開発資金で状況は変わる
勝負は生き物
対コンピュータ用の戦略の必要性
数十年後の進化は人間の想像を超える
第3章 コンピュータ将棋の新たな可能性・保木邦仁
ボナンザの個性は間違い方に出る
美学ではなく、将棋の必勝法を追い求める
ゲームの解を近似値で追い求めるミニマックスの定理とは
ミニマックス法により局面を読み、鞍点を求める
全幅探索に組み込まれた枝刈りの手法
コンピュータ将棋が将棋の神様となる日
第4章 プロ棋士はこう考える・渡辺明
読みの三要素
無駄な考えを捨てる
読み以上に必要なもの
将棋の必勝法は見つかるか
勝ち方はどのようにして学ぶか
直感力は必要か
大局観は鍛えられるか
感情はどう扱うべきか
コンピュータの教育能力
人間は経験で強くなる
勝負は頭のいい人が勝つとは限らない
一番大切な実力とは
3手の読みをまず覚えよ
データ万能主義は危険
プロ棋士も変貌する
人類の知性の最高到達点
人間はいつまで完勝できるか
プロ棋士としての目標
終章 科学的思考とは・保木邦仁
「何の役に立つのかわからない」技術の効用
科学を知っていれば、常識の嘘に惑わされない
分子の世界から、生命の神秘に迫る研究が盛ん
ボナンザのアルゴリズムも、きっと何かに応用される
まず、一部のマニアを除いてはコンピュータ将棋・プロの将棋について誤った認識を持っているだろうという事です。
まず登場するチェスのコンピュータとの対戦の歴史や現状が書かれていますが、ある程度知っているつもりでしたがかなり認識が 不足している事を感じました。たぶん大方の人は、コンピュータが人間のチャンピオンに勝ったという単純なニュースしか知らない と思います。それは一段階の些細なことかもしれません。
次に「コンピュータ将棋が人間に追いつき追い越す」という事はどの様な状態かが個々にバラバラである事です。
これは、渡辺竜王の章に詳しいです。
そして、上記の認識のないたぶん絶対多数の興味が「コンピュータ将棋が人間のプロに1局勝つ」という事だと考えるとコンピュータ 将棋にとっても、プロ棋界にとっても将棋愛好家にとっても不幸な結果に終わりかねない。
このために、プロがコンピュータと対戦する事が禁止されました。
本書は、公式にコンピュータ将棋プログラム「ボナンザ」と渡辺竜王が対戦した結果を基に書かれたものです。
この対戦内容は、コンピュータ将棋開発者には常識であっても、プロを含めたそれ以外の人間がはじめて知った事実が表面に あらわれました。
その内容も本書に詳しいですが、個人的には非常に興味があるものです。ちなみに私は数学・物理系でゲームの理論等に非常に 興味がありますから。
発達したコンピュータ将棋が避けられない水平線効果・人間の大局観に反するが実は難解な手を選ぶ事もある・手の選択に乱数 機能による選択を持っていること(必要)など多数あります。
そして、これがあるいは一番画期的な事かも知れませんが、開発者の保木邦仁氏が「ボナンザ」のアルゴリズムを公表した事です。
少数のプログラマーが作っていた時代から、より多数の人が「ボナンザ」のアルゴリズムを取り入れたり、新しいアイデアを 加えたりして急激に進歩する余地が生まれました。
最後に、将棋が強いとはどの状態かについてです。
将棋に詳しい人には当然ですが、1番勝負では何でも起こりえる事・持時間が非常に大きな要素になる事・プロ棋士にも色々な タイプがあること・同様にコンピュータ将棋も進歩すれば個性が強くなる事が予想できる事・そして人間は環境で心理的な要素が 強く影響するがコンピュータはそれがないこと等です。
私の個人的見解では、コンピュータ将棋がプロ棋士から1勝する事はまもなくと思います。
しかし、色々な要素を含めて人間のプロを越えるのはまだしばらく時間がかかると言えると思います。
将棋にあまり興味のない人は、目先の1勝のみが興味の対象でしょうが、実はそれ以後の進展が一番の重要な事です。
その過程のコンピュータの思考方法を解析すれば、プロの思考方法が解明出来るのではないかという脳科学の1面があります。
終章で保木邦仁氏が、何か有用な事に役にたつ日がくるというのは、正しい進歩が行われば私も同じ意見です。
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