小谷善行・吉川竹四郎・柿木義一・森田和郎 著 1990年5月
2007年3月に世界コンピュータ将棋選手権優勝のソフト・ボナンザと渡辺竜王との対局がありました。
将棋史上初めての、コンピュータによるネット将棋棋戦・第1回ネット棋戦・大和証券杯最強戦の開始前のエキシビション でした。
この時点で、コンピュータ将棋は急速に力をつけており、公開でのプロ棋士とコンピュータとの対戦を凍結していました。
一方では、将棋連盟は理化学研究所の脳の働きの研究に協力する事もはじめていました。
簡単にいえば、コンピュータ将棋の急激な進歩を理解・予想して、真剣に頭脳集団のプロ棋士とコンピュータとの対戦 が近日中に行われる事を予測していると考えます。
コンピュータ将棋の思考方法と、人間のプロ棋士の思考方法は異なると言われています。同時にプロトップ棋士との思考 方法は何かの差がある可能性も考えられていました。
2008年5月の世界コンピュータ将棋選手権で優勝ソフトと準優勝ソフトが、アマ名人と朝日アマ名人と対戦しました。 そして、はじめてコンピュータが勝ちました。それも2連勝です。対局の持時間がコンピュータ将棋に有利な15分だった事も ありますが、ひとつの段階に達したと言われました。
コンピュータ将棋ソフトが作られ始めたころは、非常に弱かったです。しかし、大きな可能性を感じた人で開発されて いました。
そして、はじめてコンピュータ将棋の本である本書が出版されました。18年前です。以降、コンピュータ将棋の進歩 に合わせてシリーズとして続編が出版されています。
本書では実力初段を目前にしているとされています。そしてチェスと同じようにプロ級を目標ともしています。
まえがきで大内九段は、「早く高段者レベルに達する事を期待すると」と書いています。18年後に、持時間の短い 対局でついにアマ高段者に達しました。
コンピュータ将棋に期待する 九段大内延介
まえがき 小谷善行
序章 将棋プログラムとは 小谷善行
1章 将棋プログラム設計事始め 小谷善行
2章 ゲーム木探索のアルゴリズム 小谷善行
3章 将棋プログラム設計の実際 吉川竹四郎
4章 将棋プログラムK1.5の思考アルゴリズム 柿木義一
5章 森田将棋2のアルゴリズム 森田義郎
オンライン座談会:コンピュータ将棋 過去から未来へ
付録1 将棋ソフトウェア一覧
付録2 コンピュータ将棋協会の案内
コンピュータ将棋が学術的にも興味が持たれている理由として、1:人工知能の題材、2:情報処理技術者の能力 開発、3:計算機の設計思想やプログラム言語の設計の試験課題になる、4:士気 をあげています。
本書の時点では、チェスは名人級に近く、将棋はアマ2−3級レベル、囲碁は盤面が広く勝負の判定が難しくより 遅れているとしています。全体に進歩していますが、難易度の順序は2008年でも同じようです。
思考方法には、ゲームの理論・ゲーム木探索・評価関数・枝狩りなどが登場します。それの解説とコンピュータ 将棋への応用方法が書かれています。
ゲームのソフトの難しさは、1対戦を通じて1つの思考方法では対応出来ない事が指摘されています。
序盤・中盤・終盤・最終盤で、思考方法を切り替える事が必要ですが、その切り替え判定が難しいのです。
将棋で言えば形勢判断・コンピュータ将棋では評価関数をいかに正しく行うかがポイントであり、一番難しいです。
その理由から、目的と判定が明確な詰みの有無の判定ルーチンが一番早く進歩して、2008年では人間を上回る 速さと精度を持っています。ただしその直前の段階は手段が多く、課題は多いです。
人間の将棋の進歩は、複雑で早くなってはいますが着実というのが正確でしょう。
一方、コンピュータ将棋にはコンピュータのハード=計算速度の向上という味方があります。これにソフトの改良が 加わる事によって加速的に強くなっています。
一方プロ棋士の思考方法の研究は、公表されていませんが普通の人の将棋の思考と異なるといわれています。
ものごとには、全てはじめがあります。そして、きっかけができる事で研究者や興味を持つ人が増加します。 その結果は、研究全体の底上げになり進歩を加速します。2003年からの世界コンピュータ将棋選手権の実施が 研究者の刺激になって進歩を早めているのも事実でしょう。
本書は、その全ての本格的な始まりとなる貴重な一歩になったと思います。
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