続 横歩取りは生きている(上)(下) 沢田多喜男著 1988年10月
プロ将棋とアマ将棋は、微妙に流行や好みがずれます。アマがプロ棋戦の影響を受ける事は多いですが、トップから初心者まで 広い棋力のアマでは流行はずれもあるし、棋力差もあります。
プロは公式戦に勝つために研究しますが、アマにはプロ将棋を含めて系統的に分類する研究を行う人がいます。
横歩取りはプロでは、流行の差が激しい戦型ですが、アマでは研究対象として根強い人気があります。この戦型が研究の比重が 高いのが特徴ですがそれが一部のアマ研究者向けなのでしょう。
もう一つは大局観の差でしょう。プロは敏感に、大局観で戦型を選ばない事が多くあります。
アマは大局観で劣るので、実戦棋譜の系統的研究でないと納得できないという事情があります。
そしてその結果、系統的研究書がアマの手でかかれました。
ただし、将棋は絶えず新手が現れます。横歩取りも、同様で本書以降に重大な戦型が現れましたが、本書ではそれ以前になります。
そして、今は古い戦型も含めているのが特徴ともいえます。上下2冊の大著です。
上巻
第1章 相横歩取り型
1:後手3三角戦法
2:後手4五角戦法
3:若島・佐々木流
4:後手3八歩戦法
5:後手7六飛戦法
6:空中戦法
下巻
第2章 相居飛車型
1:先手3二飛成戦法
2:先手3六飛戦法
第3章 対中飛車型
1:先手5八金右
2:先手2四飛
3:先手3六飛
第4章 新横歩取り戦法
1:塚田スペシャル
2:「いちご囲い」急戦法
3:中原流急戦相掛り
4:谷川流腰掛銀横歩取り
5:名人戦の横歩取り
まず確認しておきたいことは、
・横歩取りという進歩がなければ流行しない戦法では研究書は時代と共に古い内容になりやすい。
・分類が横歩を取る形に拘っており戦法として「横歩取り」と呼ばれているかどうかは無視している事 です。
第1章は、「相横歩取り」となっていますが現在この名称で呼ばれているのは「5:後手7六飛戦法」のみで有ることです。
この章は、先後飛先交換型と呼ぶのが現在の分類です。
この戦型は、内藤流空中戦法で終わっていますが、現在の主流は「3三角+中原囲い+8五飛」型です。
これは本書以降に現れた戦型で、予想を超えるものでした。
新手・新戦法・妙手が受賞する「升田幸三賞」に、「内藤流空中戦法」「中原囲い」「中座流8五飛戦法」の3つともに受賞して いる事実は、8五飛戦法の3階建て構造と独創性の高さが分かります。
第1章で現在でも参考になるのは、「5:後手7六飛戦法」位だと思います。
第2章は、現在ではほとんど指されていません。理由は本著に書かれた、先手の2戦型(3二飛成と3六飛)ともに先手が有望と 見られており、しかも先手に選択権があるので後手が損と言われています。
なお本書では、結論的には書かれていませんが、先手3二飛成型では、森新手1六歩が現在の最有力で先手有利と言われています。
第3章の後手中飛車型は、戦後は多く指されていましたが、現在ではほとんど指されていません。
理由は本著でも書かれていますが、後手が好んで選ぶ戦型でないのでしょう。
この形はほとんど進歩していませんので、本書の内容はいまでもほとんど変わりません。
第4章は、通常は横歩取りとは異なる戦型です。
「1:塚田スペシャルは、谷川対策が結論になり現在は全く指されていません。それは本書以降直ぐです。
それ以外は異なる戦型の1変化です。現在でも姿を変えて狙いとして残っていますが短い内容では語れないです。
そもそも現在では相懸かりは少なく、しかも先手の浮飛車は激減しています。勝率が悪くなったためです。
結論的に言えば、研究書・定跡書としては既に過去になっている内容がほとんどです。
それは仕方がないのですが、読む方は歴史的な背景をその時代の見方でまとめた資料として扱うべきと思います。
アマが詳しい研究をまとめる労力は大変で、その意義は大きいと思います。
ただし、第3章と第4章を加えた事は当時の感覚でも理解しにくいです。
本来は特定の戦法の研究書である筈が、範囲を広げすぎて内容が薄くなってしまったからです。
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