田中啓文

田中啓文は、掴み所がない作家だ、いや少なくとも作品はそうだ。
作品ジャンルは幅広く、何でも書けそうだし、色々な分野で評価もされている。
ただ読者の印象は、違うだろうし読む本で変わるだろう、正体不明たる由縁だ。
本格推理小説でデビューし、次ぎにジュニア向けファンタジー系を書くがどこかホラーの影がある。
 
一般SF雑誌デビューを果たすが、本人曰くシリアス路線を意図したが、編集部から全く別を求められた。
勿論、信用度は不明だ。
どの分野でも書けるが、駄洒落題名と駄洒落かパロディか不明な設定で進み駄洒落で終わる作品は独自性がある。
落語への思いも強い様だが、落語は駄洒落芸能ではない筈。
 
作品は作者が意図したものかどうかが不明だが、典型的なジャンルを超えた方向に進む。
本来は危なさがある筈だが、何故かこの作者は信用されているかの様にも見える。

銀河帝国の弘法も筆の誤り

SF界の巨匠であり、他のジャンルでも活躍するアイザック・アシモフの代表作の1つの「銀河帝国興亡史」をもじった題名だ。
作品集「銀河帝国の弘法も筆の誤り」を指す場合と、そこに収録された1作を指す場合がある、ここでは作品集を対象とする
---------------------- 
目次
脳光速 サイモン・ライト二世号、最後の航海
  SF作家・田中啓文批判/小林泰三
銀河帝国の弘法も筆の誤り
  駄洒落作家・田中啓文批判1/我孫子武丸
火星のナンシー・ゴードン
  駄洒落作家・田中啓文批判2/田中哲弥
嘔吐した宇宙飛行士
  悪趣味作家・田中啓文批判/森奈津子
銀河を駆ける呪詛 あるいは味噌汁とカレーライスについて
  人間・田中啓文批判/牧野修
<人類圏>興亡史年表/作成:ハリー・センボン
<人類圏>歌謡全集/編纂:ハリー・センチョップ
フランク・Y・パウル追想の記/リンダ・パウル(犬森望・訳)
 
著者あとがき
文庫版のためのあとがき
初出一覧
----------------------- 
 
小説・フィクションにどの部分が真実で、どこが作りものかを分ける事は矛盾がある。
ただ、多くの書物は「小説・フィクション」の部分と、真実を書いた部分があるとする暗黙の了解が出来ている。
暗黙の了解を利用しようとか、無視しようと考える事は、一部の作家には普通の作業のようだ。
本書はその代表的なもので、商業出版として真実を書かなくてはならない、奥付けと、たぶん目次と初出一覧だけだ真実の可能性がある。
 
あとがきや解説から読む習慣の人がいるが、本作品集はそれらしい部分はあるが、全て創作で「小説・フィクション」の一部だ。

感想等

読者は「小説・フィクション」の部分以外で、情報を得ようとする傾向があるが、それを許さない著者もいる。
田中啓文は、許さないのか、より多くの部分で楽しみたいのか、既成の何かを潰したいのか不明だが、その1人になるだろう。
それは、作者自身の考え・好みか、読者・編集者の希望や期待なのかは、知りようもない。
1人で企てる以外に、複数の仲間を誘い込む事もあり本書もその1つと言える。
ただし、勝手に同業者の名前を使わないと言う前提での事だが、保証の限りでない、大森望を犬森望として創作する事をあくまでも前提としている。
その仮定で言えば、本書の帯には多数の同業者名で「推薦しない」と記載されている事や、格短編への批判解説は筆者は真実で内容は田中氏と執筆者が楽しんでいると言える。
「著者あとがき」で田中氏が反論をするに至ってはネタと言うかコンテンツだ。
それは「やらせ」でなく、コンテンツの一部であることは、この本を読む人には自明だ。
「文庫版のためのあとがき」はやや仕掛けの薄いギャグになる。
SFの世界では、このような分野というか仕掛けというか発想は、珍しくはないが、そのボーダーレス度はこの作者は通常よりも高い。
そして、混同されがちなのが、駄洒落小説・駄洒落落ちだが、本来は併せ持つ必要がないが2つを駆使する事も多い。
作者は、ジャズや落語など多彩な分野に詳しく、奇妙に凝った題材とする。
特に落語は相性が良さそうにも見えるが、現実はそれほど駄洒落が多くはない。
やはりそちらのシリーズは別ジャンルなのだろう。
そもそもが、タブーが無いかそのラインが他と異なりかつ表現で読者の感覚をも狂わす内容は一種の麻薬性が含まれそうだ。
ついでに捧げられたアイザック・アシモフの感想が聞きたいものだ。

サブコンテンツ

メインメニュー

このページの先頭へ