広瀬正
1970年に「マイナス・ゼロ」でSF作家としてデビューしたと同時にこれに続く、「ツイス」「エロス」の連続3長編SFで直木賞候補となった。
SF自体は、それ以前から書いていたとされるが、デビュー直後の1972年に急死した。
死後出版の作品を含め数冊の著書を残す事となりました。
発表作は、一部を除きSFですが、異なるテーマを取り上げており細部のジャンル分けはあまり意味がないでしょう。
作品はテーマに対する深い掘り下げがあるが、それは内面的には自然科学的なものというより、哲学的なイメージがあります。
マイナス・ゼロ
・マイナス・ゼロ:1970年
昭和初期・戦後直前・昭和38年ころと大きく3時代が舞台となっています。
複数の人物が、タイムマシンでそこを移動を繰り返して自分と知人の過去と未来に出会いに行く事から色々な事が生じます。
タイムマシンで移動した所で、誤差が生じて時間経過を待つという設定が未来を知る人物の行動を描きます。
一方では、タイムマシンを失い時間移動出来なくなる設定も重なり、間欠的に時間移動を行います。
時代的には、昭和20年>昭和38年>昭和7年・・・昭和23年。
昭和23年・・・>昭和2年・・・昭和8年。
タイムマシンの移動と、自然な時間経過が複数の人物に重なる時に、因果関係が生じます。
感想等
伝説的な作者の伝説的な作品ですが、SFファンには知名度は高い筈です。
タイムマシンを自然科学的に見れば、現在ではその可能性自体が揺らいでいますが、SFではその存在を仮定して色々なイベントを起こして時間というものを考える試みがあります。
この作品も、過去と未来をタイムマシンがあれば変えられるかというテーマから入って、イベントの重なりという形で時間の1回転で終わる形になります。
そこで分かった結果から、未来も過去も変えられるのではないかと問いかける形になるのでしょう。
細部の構成と狙いは読者の憶測になります。
今みればもっと複雑な構成も珍しくありませんが、やはり読んで時間の推移を理解したのかはあまり自信がありません。
本作の場合は、タイムマシンによらない時間・時代の経過がかなり大きく占めます。
そしてその部分で起きる事件等がかなり書きこまれています。
それ自体も実験的な部分で面白く、イベントが起きる時間と場所を知っておりそれを待っているという設定の部分も意外と時間テーマのひとつとして面白いといえます。
知っていて待っているのか、知らないで遭遇するのかにどのような違いがあるのか?。
知らなくても歴史を書き直さないならば同じ結果になるのではないかと考えると、運命が決まっているのかという別のテーマになりそうです。
いずれにしても、素直に言えば、時間移動のテーマは読んで理解するのが厄介です。
どこかで間違ったり見逃していても不思議はないと感じます。