丘美丈二郎
第二次世界大戦後に多数の作家がデビューしました。
理由は色々あるでしょうが、戦時中のテーマ規制の解禁もそのひとつでしょう。
ミステリ・エンターテイメントもその一つであり、その後に大きな流れになる源流があります。
勿論、源流ならば戦前にもありますが、長編で大人向けは少ないです。
丘美丈二郎は、理系の人でジャンルとしては、多様にわたっています。
理系の知識を生かしたものも多いですが、そうでない幻想的な作品もあります。
ほとんどが短編ですが、長編が「鉛の小函」です。
書きたいテーマがあったので書いたと言え、その後の継続的発表はありません。
鉛の小函
戦後発刊されて最大の寿命であった、探偵小説専門誌「宝石」は、新人賞を行っています。
短編・中編・長編と、3部門に分かれていますが、戦後まもなくは紙不足でもあり思い切った企画とも言えます。
逆には、戦前派の作家だけでは不足という事情も早くから見抜いていたとも言えます。
当時の長編は、現在では中編の長さからも含みますし、上限も400枚位です。
ただ、長編自体が珍しい戦前とは、明確に異なる状況でした。
多くの既存作家と、新人作家が長編に手がけていますが、雑誌掲載で終わっている作品が多いことも事実です。
「鉛の小函」もそのような運命の1作ですが、昭和50年頃に雑誌「幻影城」で復刊掲載されました。
複数の何かを求めて、太陽系を巡って廻るというオーソドックスな展開です。
しかし流石に理系の人らしく、何かがポイントであり、作者の執筆動機ともなっています。
ある程度その方面に知識があれば、鉛という言葉に連想するでしょう。
感想等
作品数の少ない作家で、個人作品集は無いです。(追記:2冊全集が出ました。2014/07/29)
その少ない作品群は、個人的には殆どが好きな作品です。
理系人間向きかとと思った事もありますが、最初の書いたように全てがそうではありません。
空想科学小説の最初は、空を飛ぶ、そして宇宙に出るでしょう。
作者は宇宙に出て何をするかを考える事になります。
宇宙といっても、地球周辺だったり月世界だったりから始まります。
次第に太陽系に拡がりますが、宇宙科学も変わるから惑星や太陽系の情報でさえ変わります。
そして、太陽系を飛び出すとあとは作者の創造のままに自由に拡がります。
結構好きなのが、宇宙戦争でしょう。
そして、異性物との遭遇や、不思議な天体との遭遇になります。
それらと比較すると、太陽系を舞台にした冒険と科学小説は、空想とはいえ現実に近いです。
それを持って、作者の空想力を比較しても意味はありません。
むしろ、ある程度知られている世界で、かつまだ知られざる謎を解明するというストーリーです。
冒険と科学に身をまとった小説ですが、あるいは作者の現実的な空想・仮説・あるいは、太陽系の解明や
ひょっとすると人類への・・・・。
作者の思いまで、空想を広げるのも、この分野の楽しみでしょう。
その面でも、見逃せない作品と思います。