夢野久作

明治22年-昭和3年の短い生涯で、当時は適当な分類がない「探偵小説」を書いた。
適当な分類が無いのは現在も同様で、幻想と異世界を描くと見て「SF小説」に分類する事も増えた。
そこでも定められた評価と作品群の分類がなく、かって言われた「超小説」が今も合うとさえ感じる。
「SF小説」と言葉の歴史は世界的にも日本でも古くはない。
ただし、後日それ以前の作品を再評価する事で、「SF小説」に組み入れる作業が行われている。
夢野久作も典型的なひとりであり、その内容の分析は個々で広く別れている。
長くはない作家生活で、当時としては多数の作品を残している。
内容が多岐であり、評価に難しく、しかも戦時に入り、戦後は本格推理の開花という歴史に一度埋もれかけた事があります。
昭和37年の鶴見俊輔の再評価と共に、再度世に出て、以降は以降は新刊という意味では現役ではないが、全集(選集)が複数編まれて、 多くの作品が古書や図書館で読むことが出来る少ない戦前作家となっています。
個人的には、今でも生き続けている作家と考えています。
原稿用紙1200枚とも言われる「ドグラ・マグラ」と、数枚の「瓶詰めの地獄」が代表作とする人もおり、「ドグラ・マグラ」以外の作品は 選集にどれが採られるのかさえ明確でありません。
「ドグラ・マグラ」を除いては、作品が奇想なものを含めて難解という訳でない。
ただし、「ドグラ・マグラ」を読まずして夢野久作を語るなかれ的な、意見が多くを占めており、しかも多分それは正しいと思えるので 壁は高くとも、一度で理解出来なくても、「ドグラ・マグラ」は現在でもマニアに必読書の地位を譲っていません。
夢野久作作品は、幻想的であり、しかも現実の世界を離れたものであるので、「SF小説」にも入れられる事に疑問視は少なくなっていると 思っている。

ドグラ・マグラ

大長編であり、内容・文体・架空の偽引用文献等全く異なる内容が積み重なっている長編です。
しかし、章や節や部に分けていない。
ただし、あたかも別作品の様に、題名とも取れる長い区切りが複数入り、その中には通し番号が付いています。
読み進めないと、全体像を判らせない構成とも考えられるし、小説の扱う時間が1000年を越えるという意見と、一夜の夢とする見方にさえ 別れている。
全て、作者の計算の世界で読者はもがかせられるのであろう。

感想等

そもそも梗概自体が難しい。
記憶喪失の主人公に対して、天才>法医学者・若林教授と、天才?精神病科担当の正木教授が登場する。
自分は、正木教授の画期的な治療法を受けた者で、実験的な要素が強く、正木教授は死んでおり、若林教授の世話を受けると言う。
登場人物も、する事も全て怪しい、それは現在でも同じだ。
記憶回復のために色々なものを見るが、その中に「ドグラ・マグラ」という本がある・・・小説中小説???。
そして若林教授の業績と行動が説明されるが、架空の参考文献だが、そのなかから引用される・・・入れ子が複雑で混乱が激しくなる。
十分に混乱した所で、正木教授が現れ、若林教授が正木が死んだと言ったのが嘘で、主人公の記憶を取り戻させ、若林教授を糾弾しようとする。
医学者と精神科教授の対立だが、どちらの手段も狂っている。
学術研究の為に犠牲を要求する。
主人公は拒否するが、自分に関するものが散逸的に見つかる。
主人公は何者か、資料を見て悩むが判らない。
何が真実で何が嘘か判らなくなり、判らないままに終わる。
はしょっているし、間違いもあると思う。
最もらしい物が沢山登場し、同様に嘘としか思えない物も沢山登場する。
信用する物が何もない状態で始まり、多数ありすぎてどれが真実か判らない状態で終わる。
何も知らない状態と、何が真実か判らない状態とは違うのかさえ悩む。
奇想・幻想の固まりだが、本当に見せようとする構成は信じなくても、ひたすら面白い。
嘘も幻想も、具体的になるほど面白いのだろう。

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