ハル・クレメント

ハードSFの代名詞とも言うべき、ハル・クレメントは兼業作家です。非常に驚きです。
クレメント作品は、特に理系人間には一度読むと離れられない魅力があります。
今回取り上げるのは、「重力の使命」を代表とする、異星の生物「メスクリン人」の登場する作品です。
クレメント作品は、・独自の未来予想、・環境の異なる世界での思考実験、・異星の生物との遭遇、・謎と思考実験からなる科学的な解明という推理ゲーム要素(矛盾探しを含む)などが含まれています。
登場する環境と異星人の組み合わせは、非常に独創的です。

重力の使命

「メスクリン人」と登場作品

・重力の使命:1954年
・テネブラ救援隊:1958年
・超新星の使命:1970年


惑星メスクリンは巨大で非常に大きな重力を持っています。通常は地球人には生きる事ができません。
ところが、非常に短い自転周期のため遠心量で、惑星が楕円体になっており赤道付近では重力は3G程度です。
しかし極地にゆく程高くなり、600Gに達します。
当然ながら、大気も温度も地球とは異なります。
そこには、知性を持つ生物(原住民)の「メスクリン人」が生存しています。
環境にあった小型の生物で、むかでに近いイメージで描かれています。
高い重力での生活からくる形状でしょう。
地球人がうっかり極地に、無人偵察船をおろしたら故障したがとても修理にゆけません。
そこで、出会った「メスクリン人」に依頼する所から話がはじまります。
知性を持つ「メスクリン人」のリーダーは英語を取得している設定です。
赤道付近の地球人キャンプと、周回軌道上の探査船と、「メスクリン人」の探検隊との間の交信で話が展開します。
ただ、言葉が分かっても生活環境が異なるので、イメージ的に理解できない事が多数存在します。
その状態で始まった探検は、数々の困難にぶつかります。
これを度々克服して無人偵察船にたどりつきます。
高度の知性を持つ「メスクリン人」が何故困難な探検を引き受けたかは、最後まで地球人は気がつきません。
この「メスクリン人」の野心との折り合いから、次の作品での続いての「メスクリン人」との共同の探検の長編が書かれる事になります。

感想等

ハードSFが、自然科学知識を用いた小説ならば、この作者の作品はその典型といえます。
実際に作れない環境での自然科学での挙動を知るのに、思考実験が行われます。
実際に実験するのではなく計算機や数式で結果を予想します。
その結果が正しいかどうかは、思考実験の精度により影響されます。
このシリーズは、設定した特殊な環境のもとでの自然現象を思考実験で理解して行く構成です。
作者は逆に思考実験により生じる現象を見つけて謎として提出して、そして解き明かします。
それ故に、作者の描く現象と解明が正しいかどうか・矛盾はないかどうかを探す要素が、大きな比重を占めます。
単に読み流しても十分に面白いストーリーですが、作者の思考実験を検証してゆくとおもしろみも興味も増します。
「メスクリン人」の野望と、それを理解して説得する最終の場面は自然科学の本質にせまります。
(詳細は未読の人の興味を減らすので書けませんが)それが理解できた事で、続編が書かれる事になりました。
作者が面白さだけで、異星人を登場させていない事が、この事で理解できます。
そして、「メスクリン人」と地球人が感覚的に理解しにくい事の存在理由もまた、知識というものの本質をつきます。
SF小説の形をとった教養書・哲学書的な一面も本書群のもつ、優れた部分です。

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